INTERVIEWS
裂織作家を訪ねる
<アーティスト/廻巡飯店> 柴田理咲さんのインタビュー
裂織に関わる人々を訪ねるインタビュー企画。第一回は、カラフルで独特な裂織作品を発表し続ける柴田理咲さんの作業場を訪ねました。独自の感性で裂織や作品づくりを見つめるその視線とは。
肩書きはアーティスト
––素敵な作業場ですね。
ここは自宅兼作業場のように使っています。好きな物がたくさん溢れてしまっていますが、これでも減らしたほうです。ごちゃごちゃっとした雰囲気も好きですし、シンプルな空間も素敵だなと思います。なので、もっと広い部屋だったら物が少なくなるかもしれないです。



––「廻巡飯店」について教えてください。
以前は東京でショーの衣装を制作する会社で働いていました。コロナになってからその仕事がほとんどなくなってしまって。仕方なく仕事をやめました。本当は退職したあとに世界一周しようと思っていたのですが、コロナで行けなくて。思い切って自分の作品づくりでやっていこうと決意して長野県に移住してきました。最初は「廻巡飯店」というのは仮名だったんです。とりあえずの名前でやってきたのですが、だんだんとしっくりきて今は正式な屋号として掲げています。

私自身ずっとぐるぐると頭の中で何かを考えていることが多いのと、中華のお店とかアジアの屋台のごちゃごちゃとした感じとか、賑やかな声が聞こえるようなあの雰囲気が好きで、作品にもそういった世界観を特徴としたくて「飯店」って付けました。「飯店」には「ホテル」っていう意味もあるみたいですが。

––「廻巡飯店」はどこを目指しているのしょうか。
よく聞かれるのですが、そう聞かれると困ってしまいます。自分の肩書きもよく分からない。「ファッションデザイナー」ではないと思っているので、今は「アーティスト」と答えるようにしています。「ブランド」としてお店やコレクションを出したいとかは考えていなくて。自分の作品づくりを続けていく中で、裂織の可愛さとかを知ってもらえたらなと思ってやっています。

独自の世界観と、その原点
––自分のスタイルはどのように作られてきたと感じますか?
小学生くらいから割と他の子たちと比べて個性的な感じだったと思います。放課後は図工室に行って図工の先生と何かを作って遊んだり、友達の家にポスティングして探検隊員を募集して、集まった子たちと探検に繰り出したり。工夫とか想像をよくしていました。

服飾専門学校時代も、まわりの仲間は大手のアパレルメーカーやファッションブランドを目指して就職活動していたのですが、私はそういったところに就職するイメージが湧かなくて。個人でやっているブランドをとにかく調べていました。似たタイプの友達がもう一人いて、その子とお互いに就職先を心配し合っていました。

––学生時代はどのような作品を?
色はカラフルなものを制作していた。アジアチックというか、中国、インド、ベトナムなどの色合いとか、服に関してはそういう民族衣装のようなものが好きなので、アジアテイストを好んで制作していました。3年生のときにインドの神様のパールバティー(シヴァ神の妻)とのコラボっていうブランドを企画したり。
裂織との出会い
––自身の作品づくりに技法として取り入れている「裂織」を始めたきっかけは?
専門学校でやっている中で”はぎれ”が出るのですが、どうしても棄てられなくて3年間貯め続けていました。単純に”はぎれ”の集合が可愛いというのもあります。ただ、それを何かに活用できたらいいなとふんわり思っていて、卒業制作のときに7名グループでブランドを発表したのですが、そのときに”はぎれ集め”のことを話し、他の人たちの処分したい失敗作も集めてやったら面白いんじゃないかということで模索して、最終的に辿り着いたのが裂織なんです。

––そこから今も続けているわけですね。
裂織をやってみて純粋に可愛いなと気に入ったこともあるし、ファッションが好きだからこそ服を作る過程でたくさん出てくる無駄なものとか、服が大量に消費されて棄てられていることが、とても苦しい。そんな世界を変えられるものなら変えたいけど、個人では無理とも思っていて。自分のできる範囲で、伝わる人には伝わってほしいなと思いながら裂織作品を制作しています。

––長野に移住したことで、地域に根付いていた裂織に触れる機会もありましたか?
原村の裂織作家さんたちは年齢も離れていますが、織りながら「楽しい!」と言っている姿を見るとすごいなと思う。逆に私のような若い人から刺激をもらっているとも言ってくれます。むしろ私のほうが自分の知らないものづくりの世界観に刺激をもらっていますね。あと長野は毎日風景が違っていてとても綺麗なので、そういった環境からも創作活動に良い影響をもらっている気がします。


裂織は人の思い出が詰まったもの
––今回、BOLOCOのプロダクト開発にも関わってもらいました。BOLOCOの活動をどう見ていますか?
「廻巡飯店」の世界観は万人ウケしないと思っています。BOLOCOのような裂織の魅力を伝えようとしている活動が他にもあることで、良い連携ができたら私にとっても面白いなと思います。一人ではたくさんのことはできないので。

シーチングの”はぎれ”を活用したプロダクト開発を協同してもらっている。
––理咲さんにとって裂織とは?
「人の思い出が詰まったもの」だと思っています。卒業制作のとき「これ、あの子が作っていた作品の一部分だ」といった発見があって面白かったことや、SNSで募集して集まった古着とかって、その人にとっては「あの時に着ていたな」という思い出が詰まっている。単純な技法としての可愛いさだけじゃなくて、大量生産にはない「人の思い出」や「ストーリー」があるからこそ可愛いと思っているのかなと感じます。

聞き手/内田将大
文/北原圭祐
写真/佐々木健太